T.2 イムホフタンク(Imhoff Tank)

ホンジュラス・ラスベガスにある大型の開放型イムホフタンク。コンクリート製の複数の長方形の沈殿槽が並び、内部には汚水がたまっており、周囲は緑豊かな植生に囲まれている。 準集中処理・集中処理

概要

イムホフタンクは、未処理排水の一次処理に用いられる技術で、沈殿分離と汚泥の嫌気性消化を同一槽内で行います。

上部にV字型の沈殿室、下部に先細りの汚泥消化室を備え、両者の間にはスロットが設けられています。沈殿室で固形物が沈み、スロットを通じて下層に移動しますが、下層で発生したガスは沈殿室に戻らない構造になっています。

この設計により、浮遊物質の50〜70%、COD(化学的酸素要求量)の25〜50%を除去でき、条件によっては汚泥の安定化も期待できます。

仕組み

イムホフタンクでは、排水が沈殿室に流入し、粒子が沈降します。沈降した固形物はスロットを通じて下部の汚泥消化室へ移動し、嫌気的に分解されます。

分解過程で発生したガスは、上部の沈殿工程を妨げないように槽の縁に設けられたガス抜きから排出されるようになっています。

汚泥は槽の中央に集まり、徐々に濃縮されます。上部ではガスとともに細かな粒子が浮上し、スカム層が形成されます。沈殿室の底は傾斜を持たせ、沈降した固形物が効率よく消化室へ落ちるように設計されます。

入力と出力

適用条件

イムホフタンクは、家庭排水や混合排水に適した一次処理技術で、以下の条件で有効です。

  • 対象人口が約50〜20,000人規模の施設で、比較的高い有機負荷を処理する必要がある場合
  • 有機性ショックロード(通常運転時の流入負荷を一時的に大きく上回る負荷)に対して安定した運転が求められる場合
  • 敷地面積を抑えたい場合(必要な設置面積が小さい)
  • 温暖・寒冷の両気候で適用可能
  • 地下水位が低く、洪水リスクが小さい場所での地下設置が可能

高地下水位地域では深い構造が不利となるため、地上設置型を採用することもあります。

適用可能なシステム

  • システム 1
  • システム 6
  • システム 7
  • システム 8
  • システム 9

長所と短所

長所

  • 固液分離と汚泥の嫌気性安定化を一体化できる
  • 有機性ショックロードに強い
  • 必要面積が小さい
  • 処理水の臭気が少なく、後段処理に適している
  • 運転コストが低い

短所

  • 槽が深く、地下水位が高い地域では設置が困難
  • 設計と施工に専門的な知識が必要
  • 病原体の除去率が低い
  • 処理水・汚泥・スカムの追加処理が必要

設計・運用上のポイント

  • 構造は通常、鉄筋コンクリート製で地下に建設する。地上設置型や小型プレハブ型も利用可能
  • 滞留時間は2〜4時間程度にして、後段の好気性処理のために嫌気状態にならないように保つ
  • 入口と出口にはT字管または仕切りを設け、流速を抑えてスカムの流出を防ぐ
  • 沈殿室の底は1.25〜1.75:1の傾斜を持たせ、スロット幅は15〜30cmとする
  • 汚泥消化室は45°以上の傾斜壁とし、汚泥が中央に滑り落ちるように設計する
  • 消化室の容量は汚泥発生量、消化効率、気温を考慮して4〜12か月分の貯留能力を確保する
  • 寒冷地では消化速度が低下するため、保持時間を延ばし容積を拡大する
  • スカムやガス抜き管の詰まりを防ぐため、流路の清掃は週1回程度、スカム除去は毎日または必要に応じて行う
  • 汚泥は設計に基づいて定期的に引き抜き、沈殿室スロットの下には常に約50cmの余裕を保つ
  • 運転管理は低コストで行えるが、担当者の訓練と定期的な監視が不可欠である

まとめ

イムホフタンクは、沈殿と嫌気性消化を同時に行う効率的な一次処理技術です。構造が堅牢で、運転コストも低く、臭気の少ない処理水を得られることから、後段の処理設備との相性が良い方式です。一方で深い構造が必要となるため、立地条件と地下水位に注意し、定期的な清掃と汚泥管理を確実に行うことが求められます。

引用

アイキャッチ画像:MIKELONIS (2008): Open Imhoff tank in Las Vegas, Honduras. Sustainable Sanitation and Water Management Toolbox – SSWM.info, License: CC BY 3.0

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