概要
固形物除去型下水道は、小口径の配管網によって、あらかじめ固形物を除去した排水(例:浄化槽の処理水)を輸送するシステムです。配管は浅い深さに敷設でき、流量や勾配の制約をほとんど受けません。この方式は、沈殿分離式下水道(settled sewer)や小口径重力式下水道(small-bore gravity sewer)とも呼ばれます。
システムの前提条件として、家庭レベルでの一次処理が不可欠です。各戸に設置された固形物除去槽(浄化槽など)が沈降性固形物を除去し、下流側の小口径の配管が詰まるのを防ぎます。
また、固形物除去槽は、排水量のピークを緩和する役割も果たします。このため、配管内での堆積や閉塞のリスクが少なく、自浄流速や最小勾配を確保する必要がありません。
さらに、点検箇所の数を少なくでき、勾配の変化や地形の起伏にも柔軟に対応できます。

仕組み
固形物除去型下水道では、各家庭の沈殿槽で固形物を除去したのち、小口径(>75mm)の管を通して排水を重力で流下させます。
配管は地形に沿って敷設でき、部分的に負勾配や圧力流状態になることもあります。こうした場合でも、下流端が上流端より低ければ排水は継続的に流れます。
圧力流が発生する区間では、排水が沈殿槽へ逆流しないように、槽内の水位が管内圧より高く保たれる必要があります。また、高所部では通気管を設けてガスの抜けを確保します。
このシステムでは、均一な勾配や直線的な配管は不要です。障害物を避けるように緩やかに曲げることができ、施工上の許容範囲が広いのが特徴です。
清掃用機械は不要で、それがアクセスするための高価なマンホールも不要です。上流端、高所部、分岐点、管径変更部などに清掃口を設けるだけで十分です。
入力と出力
- 入力/出力:処理水
適用条件
固形物除去型下水道は、中密度の都市周縁部に最も適しています。
一方で、人口密度が低い農村部や広大な敷地がある地域では経済性が低くなります。
特に以下の条件下で有効です:
- 浸透処理が難しい地域(地下水位が浅い、岩盤地盤など)
- 敷地内に浸透野(D.8)などの処理施設を設置するスペースがない場合
- 既存の浄化槽があり、人口増加や水使用量の増加により浸透が困難になった地域
また、簡易下水道(C.4)と異なり、限られた水使用量の地域でも運用が可能です。
浅い掘削と少量の資材で建設できるため、従来型下水道より20〜50%低コストで導入できます。
設計・運用上のポイント
- この方式では最小流速や最小勾配は不要
- 負勾配を含む配管も可能だが、最下流が最上流より低いことが条件
- 圧力流となる区間では、沈殿槽水位が管内圧より高くなるように設計し、逆流を防ぐ
- 高所部には通気管を設ける
- 清掃口は、上流端・高所部・分岐点・管径変更部などに設ける
- 雨水や地下水の流入を防ぎ、接合部の漏水対策とPVCパイプの使用が推奨される
- 雨水流入や地下水浸入の想定量をあらかじめ見積もって設計する
運用と維持管理
- 各家庭の沈殿槽(固形物除去槽)は定期的な汚泥引き抜きが不可欠
- 管内は定期的に洗浄(フラッシング)を行い、閉塞を防ぐ必要がある
- ゴミや固形物の投入を防ぐため、住民への啓発と訓練が必要
- 不法接続を防止するため、沈殿槽のない接続を厳しく管理する必要がある
- システムの管理は、下水道事業者・民間業者・利用者委員会のいずれかが責任を持って実施する
長所と短所
長所
- 最小勾配・最小流速が不要
- 水使用量が少ない地域でも導入可能
- 従来型重力下水道よりも建設・運転コストが低い
- 浅い掘削で済み、地形に柔軟に対応可能
- 人口増加に合わせて段階的に延伸可能
短所
- 各家庭に沈殿槽スペースが必要
- 沈殿槽の定期的な汚泥引き抜きが必須
- 不法接続防止と住民訓練が必要
- 閉塞が発生する可能性があり、定期的な点検が求められる
- 専門的な設計・施工が必要
- 漏水による地下水汚染リスクがあり、特定が困難
まとめ
固形物除去型下水道は、浄化槽の処理水など固形物を除いた排水を小口径配管で輸送する効率的なシステムです。地形に柔軟に対応でき、浅い掘削で施工可能なため、中密度地域や岩盤地帯、高地下水位地域などで特に有効です。ただし、定期的な沈殿槽の維持管理と、住民の適切な利用・管理体制が不可欠です。


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