C.6 従来型重力式下水道(Conventional Gravity Sewer)

コンクリート製の円形下水道管の内部を奥まで見通した写真。管の中央には薄い黄色がかった汚水が浅く流れ、両側の縁は乾いている。奥は暗闇に続いている。 搬送

概要

従来型重力式下水道は、地下に広範囲の管網を構築し、重力によってブラックウォーター、ブラウンウォーター、グレーウォーター、場合によっては雨水を輸送するシステムです。
通常は家庭ごとに枝管が設けられ、それらが地区・街区レベルで集まり、最終的に(半)集中型の処理施設へ排水を導きます。

管網は一般に、幹線(主要道路下に設置)、二次管(地域レベル)、三次管(家庭レベル)の3階層で構成されます。

従来型重力式下水道の図。家庭からの排水は下水管を通じて下水道の幹線に接続され合流する。また、道路には点検用のマンホールが敷設されている。
出典:Eawag:https://www.eawag.ch/en/department/sandec/publications/compendium/

仕組み

従来型重力式下水道では、重力を利用して排水を自然流下させることを基本とします。
家庭や施設から排出された排水は、建物の排水管から枝管・地区管を経て幹線管路に流れ込み、最終的に処理施設へ送られます。必要に応じて、地形条件に合わせてポンプ施設を併設し、一定の流下を維持します。また、システムは大規模であり、都市全体の排水を一元的に集めるため、多数の分岐・接続部を持つネットワーク構造が特徴です。

入力と出力

適用条件

従来型重力式下水道は、大量の排水を(半)集中型処理施設まで輸送するのに最も適した技術です。
ただし、計画・設計・施工・運転・維持管理のすべてに専門的な知識が必要であり、導入には高い初期投資が伴います。

都市部などの高密度地域では有効ですが、工事は交通や生活を大きく妨げることがあり、行政・施工業者・地権者の綿密な調整が不可欠です。
また、地盤の変動によりマンホールや接合部に亀裂が生じ、地下水の浸入や汚水の漏出を招くことがあります。

寒冷地では地中深くに設置されるため、凍結の影響を受けにくいという利点もあります。

設計・運用上のポイント

設計上の要点

従来型下水道は、家庭排水の一次処理や貯留を必要としません。
ただし、管内に固形物が堆積しないように、自浄流速(self-cleansing velocity)を維持する設計が必要です。

  • 最小流速:0.6〜0.7 m/s(晴天ピーク流量時)
  • 勾配:全線で一定の下り勾配を確保することが必須

勾配を維持できない地形ではポンプ場を設置します。
幹線管は通常、交通荷重の影響を避けるため1.5〜3 mの深さに埋設されます。
深度は地下水位、最下流点(例:地下室)、地形などによっても変化します。

配管径は平均・ピーク流量に基づいて選定され、コンクリート、PVC、ダクタイル鋳鉄管などが一般的です。

点検・付帯設備

  • マンホールは一定間隔ごと、分岐点や方向転換点(水平・垂直方向)に設置されます。
  • マンホールは雨水や地下水の流入を防ぐように設計する必要があります。

また、高濃度排水(工場・飲食店など)を接続する場合は、現場での予備処理または一次処理を義務づけ、下水管の詰まりや処理場の過負荷を防ぎます。

雨水との関係

このシステムは雨水を同時に流すこともできますが、その場合は合流式下水道と呼ばれます。
雨天時には処理施設が過負荷にならないように越流水路(オーバーフロー設備)が必要です。
しかし、合流式下水道は現在では推奨されていません。
代わりに、雨水の分離排水や敷地内浸透処理を行うことで、施設の規模を縮小し、処理効率を向上させる設計が主流です。

運用と維持管理

マンホールは定期点検と清掃のために使用されます。砂、木片、布などの異物が堆積して流路を塞ぐことがあるため、定期的な清掃が必要です。また、油脂による閉塞を防ぐため、利用者への油脂廃棄の啓発も重要です。

主な清掃方法には以下があります。

  • ロッド式清掃
  • フラッシング(洗浄水による洗い流し)
  • ジェッティング(高圧洗浄)
  • ベーリング(汚泥すくい取り)

下水道内部には有毒ガスが発生するため、作業は専門業者のみが実施すべきです。
ただし、よく組織化された地域では、三次管路など一部を訓練を受けた地域住民グループが維持管理することも可能です。いずれの場合も、防護具の着用と安全管理が不可欠です。

長所と短所

長所

  • 簡易下水道や固形物除去型下水道に比べ、維持管理頻度が少ない
  • グレーウォーターや雨水を同時に輸送できる
  • 固形物や砂分を含む大量の排水にも対応可能

短所

  • 初期建設費および運転・維持管理費が非常に高い
  • 固形物の堆積を防ぐため、最小流速を維持する必要がある
  • 深い掘削が必要で施工が大規模になる
  • 地域の発展や人口変化に合わせた拡張が難しく、費用がかさむ
  • 専門的な設計・施工・維持管理を要する
  • 漏水が発生すると、汚水漏出や地下水汚染を引き起こすおそれがある

まとめ

従来型重力式下水道は、都市部で大規模に導入されてきた標準的な排水システムです。
重力流による自然排水で信頼性が高く、衛生的で快適な環境を提供しますが、高コスト・深掘り・維持管理負担といった課題を伴います。
設計・施工・運用すべてに専門知識が求められ、他の排水システムとの比較検討が重要です。

コメント