T.1 沈殿槽(Settler)

沈殿槽の内部で、作業員が汚泥をホースで吸い上げている。作業員は青い作業服に黄色いヘルメット、手袋、長靴を着用しており、沈殿槽の底には黒い汚泥が堆積している。周囲はコンクリート製の槽壁に囲まれている。 準集中処理・集中処理

概要

沈殿槽は、排水中に含まれる浮遊物質(suspended solids)を重力によって沈降・除去する一次処理技術です。

低い流速によって粒子を底部に沈め、油脂などの軽い成分は上部に浮かせます。構造は円形または矩形のタンクで、前処理の後に設置されるのが一般的です。

沈殿槽は浮遊物質の50〜70%、BODの20〜40%を除去でき、後段の処理プロセスの負荷を軽減します。

仕組み

槽内で流入水の流速を大きく低下させることで浮遊物質を沈降させます。重い粒子は底部に汚泥として堆積し、油脂や泡沫などの軽い成分はスカム層として上部に浮上します。

沈殿槽に浮上するスカムの写真

槽内には流れを均等に分散させるためのバッフル板仕切りが設けられ、短絡流(沈殿槽内で流入水が本来の流路を通らず、滞留時間を十分に経ずにそのまま出口側へ抜けてしまう現象。この流れが発生すると、浮遊物質が十分に沈降せず、処理効率が大きく低下する)や渦流を防ぎます。

底部に溜まった汚泥は、重力またはポンプによって定期的に引き抜きます。大規模な沈殿槽では、スラッジスクレーパーやホッパーが設けられ、汚泥を自動的に回収します。

入力と出力

適用条件

沈殿槽の導入は、施設規模や排水の性状、管理能力、嫌気性プロセスの有無などによって判断されます。
特に以下の条件に適しています。

  • 前段の処理水に浮遊物質や固形物が多い場合
  • 後段の濾材や生物膜を保護する必要がある場合
  • 雨水を含む排水で、有機性固形物の放流を防ぎたい場合
  • 小規模活性汚泥法の安定性を向上させたい場合

沈殿機能を含む他技術(例:浄化槽、嫌気性バッフルリアクター、イムホフタンク、バイオガスリアクターなど)がある場合は、別途沈殿槽を設ける必要はありません。

適用可能なシステム

  • システム 1
  • システム 6
  • システム 7
  • システム 8
  • システム 9

長所と短所

長所

  • 構造が単純で堅牢である
  • 懸濁物質の除去効率が高い
  • 建設費および運転コストが比較的低い

短所

  • 汚泥を頻繁に除去する必要がある
  • 処理水、汚泥、スカムそれぞれ追加処理が必要
  • 短絡流が発生すると処理効率が低下する

設計・運用上のポイント

  • 流速を抑え、乱流を防ぐ設計とする
  • 滞留時間は1.5〜2.5時間を目安とする
  • 入口・出口にはT字管仕切り板を設けて流れを安定化
  • 底部に傾斜をつけ、汚泥を自然に集める構造にする
  • 汚泥の引き抜きは重力、手動ポンプ、エアリフト、真空ポンプなどで実施
  • 浮上したスカムも手動または機械的に除去
  • 効率は滞留時間や汚泥引き抜き頻度に依存し、高温環境では密度流対策が必要
  • 改良策として傾斜板沈殿装置凝集剤併用が有効

まとめ

沈殿槽は、重力を利用して浮遊物質を除去し、後段の処理設備を保護する基本的な一次処理技術です。構造が単純で信頼性が高く、さまざまな規模の施設に導入可能です。定期的な汚泥・スカム除去を行うことで、安定した運転と衛生的な管理が維持されます。

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