概要
従来型重力式下水道は、地下に広範囲の管網を構築し、重力によってブラックウォーター、ブラウンウォーター、グレーウォーター、場合によっては雨水を輸送するシステムです。
通常は家庭ごとに枝管が設けられ、それらが地区・街区レベルで集まり、最終的に(半)集中型の処理施設へ排水を導きます。
管網は一般に、幹線(主要道路下に設置)、二次管(地域レベル)、三次管(家庭レベル)の3階層で構成されます。

仕組み
従来型重力式下水道では、重力を利用して排水を自然流下させることを基本とします。
家庭や施設から排出された排水は、建物の排水管から枝管・地区管を経て幹線管路に流れ込み、最終的に処理施設へ送られます。必要に応じて、地形条件に合わせてポンプ施設を併設し、一定の流下を維持します。また、システムは大規模であり、都市全体の排水を一元的に集めるため、多数の分岐・接続部を持つネットワーク構造が特徴です。
入力と出力
適用条件
従来型重力式下水道は、大量の排水を(半)集中型処理施設まで輸送するのに最も適した技術です。
ただし、計画・設計・施工・運転・維持管理のすべてに専門的な知識が必要であり、導入には高い初期投資が伴います。
都市部などの高密度地域では有効ですが、工事は交通や生活を大きく妨げることがあり、行政・施工業者・地権者の綿密な調整が不可欠です。
また、地盤の変動によりマンホールや接合部に亀裂が生じ、地下水の浸入や汚水の漏出を招くことがあります。
寒冷地では地中深くに設置されるため、凍結の影響を受けにくいという利点もあります。
設計・運用上のポイント
設計上の要点
従来型下水道は、家庭排水の一次処理や貯留を必要としません。
ただし、管内に固形物が堆積しないように、自浄流速(self-cleansing velocity)を維持する設計が必要です。
- 最小流速:0.6〜0.7 m/s(晴天ピーク流量時)
- 勾配:全線で一定の下り勾配を確保することが必須
勾配を維持できない地形ではポンプ場を設置します。
幹線管は通常、交通荷重の影響を避けるため1.5〜3 mの深さに埋設されます。
深度は地下水位、最下流点(例:地下室)、地形などによっても変化します。
配管径は平均・ピーク流量に基づいて選定され、コンクリート、PVC、ダクタイル鋳鉄管などが一般的です。
点検・付帯設備
- マンホールは一定間隔ごと、分岐点や方向転換点(水平・垂直方向)に設置されます。
- マンホールは雨水や地下水の流入を防ぐように設計する必要があります。
また、高濃度排水(工場・飲食店など)を接続する場合は、現場での予備処理または一次処理を義務づけ、下水管の詰まりや処理場の過負荷を防ぎます。
雨水との関係
このシステムは雨水を同時に流すこともできますが、その場合は合流式下水道と呼ばれます。
雨天時には処理施設が過負荷にならないように越流水路(オーバーフロー設備)が必要です。
しかし、合流式下水道は現在では推奨されていません。代わりに、雨水の分離排水や敷地内浸透処理を行うことで、施設の規模を縮小し、処理効率を向上させる設計が主流です。
運用と維持管理
マンホールは定期点検と清掃のために使用されます。砂、木片、布などの異物が堆積して流路を塞ぐことがあるため、定期的な清掃が必要です。また、油脂による閉塞を防ぐため、利用者への油脂廃棄の啓発も重要です。
主な清掃方法には以下があります。
- ロッド式清掃
- フラッシング(洗浄水による洗い流し)
- ジェッティング(高圧洗浄)
- ベーリング(汚泥すくい取り)
下水道内部には有毒ガスが発生するため、作業は専門業者のみが実施すべきです。
ただし、よく組織化された地域では、三次管路など一部を訓練を受けた地域住民グループが維持管理することも可能です。いずれの場合も、防護具の着用と安全管理が不可欠です。
長所と短所
長所
- 簡易下水道や固形物除去型下水道に比べ、維持管理頻度が少ない
- グレーウォーターや雨水を同時に輸送できる
- 固形物や砂分を含む大量の排水にも対応可能
短所
- 初期建設費および運転・維持管理費が非常に高い
- 固形物の堆積を防ぐため、最小流速を維持する必要がある
- 深い掘削が必要で施工が大規模になる
- 地域の発展や人口変化に合わせた拡張が難しく、費用がかさむ
- 専門的な設計・施工・維持管理を要する
- 漏水が発生すると、汚水漏出や地下水汚染を引き起こすおそれがある
まとめ
従来型重力式下水道は、都市部で大規模に導入されてきた標準的な排水システムです。
重力流による自然排水で信頼性が高く、衛生的で快適な環境を提供しますが、高コスト・深掘り・維持管理負担といった課題を伴います。
設計・施工・運用すべてに専門知識が求められ、他の排水システムとの比較検討が重要です。


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